『わが師わが友』 朝永 振一郎
楽しんでいたり、
何かに熱中している時、
時間はあっという間に過ぎる。
そういう経験は一般に肯定されることが多いが、
時間が過ぎ去っていくのを恐れるあまり、
逆に何かに「ハマる」ことを躊躇することはないだろうか?
まだ問題の形もなしていない何かのために、
足踏みしてしまう。
クリアすべき課題を自分で見つけなければいけない時には、
何が課題として適格かという、
一つメタな課題がつきまとう。
そうして考えているうちに、
メタな思考はさらにメタに進み、
「自分探し」に近くなるほど、
遠ざかっていく「現実」に、
焦る。
四月三十日 今日も結局、何もしないようなものだ。このごろ、いかにも理窟に合わない気分がぼくの行動を支配している。その気分の根本は時間のたつのをおそれるということらしい。それが妙なことに、だから何もしないでいたいというふうに作用する。何かすることによって、せっかくの時間が消えてしまうような気がするのだ。つまり、何かをやることによって「時間のたつのを忘れる」ことがいやなのらしい。
- 作者: 朝永振一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1976/08
- メディア: 文庫
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[目次]
- わが師 わが友
- 滞独日記
- 帰郷日記
- 十年のひとりごと
- 私と物理実験
- 鏡のなかの世界
- 数学がわかるというのはどういうことであるか
- 科学者の自由な楽園